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慎ましい事

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今はもうなくなってしまったけど、東ドイツという国の人々はとても慎ましやかでした。
住まいは戦争時代の銃痕が残っていて、
西側ヨーロッパの国々のような美しさとはかけ離れた黒くすすけた外壁。
食べ物も着る物も質素。
冬の朝、いつまでたっても日が昇らない街中を走る路面電車のキーッとなるブレーキ音が
今でも耳に残っています。

冬のある日、学校の先生のお宅に招かれました。
先生のアパートも、古く今にも外壁が崩れてしまいそうなお宅でした。
でも玄関のドアを先生が開けてくれたとき、シナモンやカルダモンのスパイスの香りと
暖かいオレンジ色の照明。
小さな小さなアパートだけど丁寧に磨かれた木製家具に真っ白なレースのカーテン。
食卓にはあちらこちらにキャンドルが灯されて。。。
先生のご家族4人と私たち3人は小さなテーブルを囲んで
暖かいスープとちょっとすっぱい黒パンにワインで何時間もお話しました。

どこにも贅沢はないけれど、お腹も心も満足で。。。
みんなの笑顔と家の壁紙の柄は20年経ったいまでも憶えている。

パンひとつ買うのも苦労して、バナナを買うのも長い行列。
そんな不安定な国も今はもうありません。
オットと私の心の中での記憶です。
お天気が良い春の日は、オットと森の中をずっとずっとお散歩して
途中のカフェのテラスで冷たいアイスクリームを食べたことが想い出されます。

時々、東ドイツの記憶を辿って物であふれた今の生活を見直しています。
by d-wintergarten | 2008-04-16 09:32 | reise旅
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